FILE2 記憶 デモ


おや…客とはめずらしい
街がたいへんなことに
なっておるらしいな
たしかにこの森には
隣町に通じる古い道があるが…

迷うといかん…
わしが案内しよう

ケガでもするとまずかろう?
近くにまともな病院でも
あれば別だがね

…病院?

…ここにいたのか
ああ…ドロシー…
もう…離れないよ


つくづく人間ってやつは
自分勝手な生き物だ

他人の不幸を気遣うそぶりで
傍観者を決め込む

かくいう俺自身がそうさ…
割り切りの早さにウンザリするよ

命を預け、安心を得るべき場所
…それが「病院」のはず

人の業とは恐ろしいもの
どんな場所も地獄に変えられる

それは身に染みて理解している…
うずく古傷とともに
もともと好きじゃない「病院」が
さらに嫌いになっちまった

消毒薬の匂いをかぐたびに
今日の体験を思い出すかも

今後カゼでもひこうものなら
命にかかわるよ…

他者よりも優れた能力を持てば
それを誇示したくなるのが常

だが往々にして
それは哀しき結果をもたらす

私も医師のはしくれとして
その戒めを常に抱かねばなるまい

世にあふれる小悪党どもに
いちいちかまっちゃいられない

正義をふるいたいなら
それ相応の力を持つべきだ

それこそ、どんなバケモノにでも
立ち向かえる圧倒的な力を

あの病院がしたことは
ただの違法実験じゃなかった

人の命をもてあそぶ
危険でごう慢な行為

カート…あなたの犠牲を
無駄にはしないわ

生きてこの街を出て…
必ず真実を伝えてみせる

病院が崩れ去るとともに
訪れた不思議な感覚

胸をしめつける寂しさと
何かから解き放たれた安堵感

ふと伝った涙の理由は
今もわからない…

昔と今…あの病院とともに消えた
様々な記憶たち

せめてこの街を出るまでは
そのことを考えつづけよう

すべてを無かったことにするのは
あまりに寂しいから

「鉢植え屋敷」からの逃走劇…
まったくおかしな体験だった

だが、そんな思い出話を
いつまでも続けているヒマはない

この街から出られなければ、いずれ
俺自身がおかしくなるからな

病院はどうにも好きになれん
あの匂いで頭が痛くなる

もっとも今回は、注射などより
よほど恐ろしい目にあった

無事で街を出られたら、思い切って
健康診断を受けてみるか…

いわくつきの廃病院…
取ってつけたような舞台だったな

変なオノ男と、人を食う花…
さすがに幽霊はいなかったけど

話のネタはもう充分だ
二度と来るもんか!
人や動物だけでなく
植物までもが毒素に侵されていた

それはやがて地中に根を張り
世界そのものを蝕んでゆく…

そんなイメージが
いつまでも脳裏から消えないのだ

うっとうしい毒花は一掃したが
隣町への道とやらは見つからない

どうせそんなことだろうと
思っちゃいたが

俺のガマンにも限界はある
さっさとケリをつけさせてくれ…

あらゆる過去はガレキに埋もれ
おそらく二度と、掘り返せない

無理に暴いても、その傷口からは
痛々しく血があふれるだけ

ならばいっそ…このままに
しておくべきなの…?

何もかもが、あっという間に
地中へと沈んでいった

まるで、自身が抱えた命の重みに
耐え切れなかったように

あとには物悲しい静けさが
霧とともに立ち込めるばかり…

崩壊の音はいつか霧に飲まれ
再び森を静けさが覆う

全ての生あるものに
いつか「死」は訪れる…

あの病院も、ひとつの大きな
命だったのかも知れない

何だ?この展開は…
ふざけるんじゃねえ

結局、また街に逆戻りか
とんだ寄り道を食わされちまった

まるで俺たちの行く先々で
誰かが罠を張ってるようだぜ

ざわざわと毛羽立つ心に
奇妙な既視感が去来する

歩いても歩いても
無限に続く深い森

背後から銃声が響かぬうちに
ひとまず街へ戻るとしよう…
森、森、森…
どこまでも退屈な眺め

これが映画だったら
「金返せ」って叫ぶところだよ

ま…人生なんてのは
だいたいそんなモンだけど

森を抜けることはかなわず
街への後退を余儀なくされた

いずれチャンスは巡る…
そう信じてはいるものの

世界は崩壊へと加速している
残された時間はわずかだ

野垂れ死にだけは
なんとか免れたようだが

またあのにぎやかな街に
後戻りってわけだ

まあいい…コソコソ逃げ回るのは
いずれ俺の性に合わない

この日の出来事は
ただ命をすり減らしただけ…

まさに無駄足…
なんの起伏もなかったわ

まあ…でもこれこそが
リアルな「経験」なのかも知れない

時間ばかりが虚しく過ぎ
成果なく街へと引き返す

だけど、こうなる予感が
しなかったわけじゃない

あの街は不思議な磁力で
人々を覆い囲んでいる…

…それからまる一日
森の中をさまよい続けた

結局、もとの街に戻ることに
なってしまったけど…

日が昇る限り明日は来る
だからあきらめないわ